1. プロジェクト名:聴覚音声学と音韻論の相互関係の調査研究
2. 内容概略:
このプロジェクトは,音韻論と聴覚音声学との共有領域を探求するための基礎資料である様々な言語の聴覚音声学的事実に関する我々の知見の拡大に向けて、フィールド状況(実験室外)での聴覚実験の方法論を発展させるための調査研究である。
3. 事業推進担当者:中川裕
4. 研究協力者:佐野洋・望月源・降幡正志・鈴木玲子・上田広美・匹田剛(以上本学教員)、金愛子(本学大学院博士後期課程)、柳村裕(本学大学院博士後期課程)、髙橋康徳(本学大学院博士後期課程),青井隼人(本学大学院博士後期課程),田原洋樹(立命館アジア太平洋大学)、原真由子(大阪大学)、五十嵐陽介(国立国語研究所)。
5. 活動内容:
活動内容は以下の通りである。
(1)研究構想と研究分担とスケジュールに関する討議、
(2)インドネシア語母音事例の予備調査実験(刺激音録 音・編集、実験実施【東京、大阪、バリ】、結果集計・聴覚距離算出、インドネシア学会発表【原真由子・降幡正志】)、
(3)ラオス語声調の音響音声学的分析(資料録音、音響分析、統計処理による正規化、声調メロディの記述と聴覚キューに関する仮説設定、音声学会研究例会発表【柳村裕】)、
(4)韓国語2方言の話者による日本語 破裂音の<有声無声+ピッチ型>範疇の聴覚実験調査(東京方言刺激音収録・編集、刺激音セット作成、実験実施【東京、ソウル、プサン】、結果集計・聴覚距 離算出、論文投稿【金愛子】)、
(5)コイサン語(グイ語)の音響的・聴覚的事実の分析と音韻構造の関係の考察【中川裕】。
(6)研究集会を5回本学で開催し、刺激音録音方法、刺激音編集方法、 実験実施の方法、集計方法についての講習会・勉強会を行った。
2008年度中に,計画された活動は完遂した。その後,この調査は,科研費基盤研究A(科研費20242008)の支援を受け,中川裕を代表とする別のプロジェクトに引き継がれて,研究調査を拡大しつづけている。
本プロジェクトの研究成果には、音響音声学のデータ分析のための小冊子、『Praatを用いた音響音声学的分析の初歩』の出版も含まれている。この小冊子は、簡単な初級教科書で、大学院生の音響音声研究の初心者を対象にデザインされたものである。波形、スペクトログラム、スペクトルの断面、第1と第2フォルマントに関する母音空間図のような、様々な図解を用いて、セグメントに焦点を当てた音響音声学的分析の基礎について解説している。本冊子は、本来の大学院生の課程のみならず、学部レベルの授業やAA研究所の若い言語学者のためのワークショップなどといった機会にも利用できるものである。
6. 成果物:
金愛子(2008)「韓国語母語話者による日本語破裂音の聴覚的認識」『言語・地域文化研究』 第14号 (2008.3)(論文)
Nakagawa, H. (2007) Integration of clicks and non-clicks. 『東京外国語大学論集』第75号 pp.87-96, 2007. (論文)
原真由子・降幡正志(2007)「聴覚実験音声学的調査がもたらす知見の発音教育にとっての含意」日本インドネシア学会2007年度研究大会(南山学園研修センター)2007年11月10日(発表のハンドアウトを文章化したもの)
柳村裕(2007) 「ラオ語ビエンチャン方言声調の音響音声学的記述」日本音声学会第316回研究例会2007年12月8日(ハンドアウト)
中川裕(2008) 「聴覚音声学と音韻構造の相互関係からみる音声教育」外国語教育学会第12回大会. 11月15日. 東京学芸大学.
大崎沙織(2008)「教授者の微細な発音変異が学習者にもたらす聴覚的知覚:日本語・ロシア語事例」外国語教育学会第12回大会. 11月15日. 東京学芸大学.
森健太(2008)「日本語学習における母音無声化とアクセント知覚の相互作用」外国語教育学会第12回大会. 11月15日. 東京学芸大学.
高橋康徳 (2008)「上海語「入声」が引き起こす声調サンディに関する新解釈の提案 」.『第22回日本音声学会全国大会予稿集』25-30.日本音声学会第22回全国大会. 9月15日. 明海大学
高橋康徳 (2008) 「調音点画像を用いた中国語そり舌調音の発音教育の可能性」. 外国語教育学会第12回大会. 11月15日. 東京学芸大学.
高橋康徳 (2009) 「上海語連続変調の新解釈:最適性理論の導入」. 『中日理論言語学研究会第16回研究会発表論文集』15-31.中日理論言語学研究会第16回研究会.1月11日.同志社大学大阪サテライト.
柳村裕(2008)「ラオ語ビエンチャン方言の声調の聴覚音声学的分析」『第22回日本音声学会全国大会予稿集』pp. 31-36. 日本音声学会. 9月15日. 明海大学.
柳村裕(2008)「日本人ラオ語学習者の声調の発音における問題点 ‐高低尺度と時間的配置‐」外国語教育学会第12回研究報告大会. 11月15日. 東京学芸大学.
柳村裕(2009)「ラオ語ビエンチャン方言の声調の聴覚的類似関係」『電子情報通信学会技術研究報告』108(465)、31-36. 電子情報通信学会. 3月5日. 東京工科大学.
Nakagawa, Hirosi (2009)"A preliminary phonetic investigation of the lexical tones of G|ui", Working Papers in Corpus-based Linguistics and Language Education (3: 45-52) TUFS.
Nakagawa, Hirosi (2009) "Phonotactic constraints of roots in G|ui", The World Congress of African Linguistics 6 (WOCAL6), August 17-21, 2009, Cologne, Germany.
金愛子(2009)「韓国語2方言話者による日本語破裂音の知覚の差異」2009年(平成21年)度 第23回日本音声学会全国大会、九州大学9月26日〜27日
ジュゼッペ・パッパラルド(2009)「波照間方言2変種の音響音声学的比較」2009年(平成21年)度 第23回日本音声学会全国大会、九州大学9月26日〜27日
柳村裕(2009)「ラオ語ビエンチャン方言の声調の音声変異:隣接声調間の影響」2009年(平成21年)度 第23回日本音声学会全国大会、九州大学9月26日〜27日
原真由子(2009)「聴覚音声学的実験に基づくバリ語平地方言の/ə/の解釈」2009年(平成21 年)度 第23回日本音声学会全国大会、九州大学9月26日〜27日
青井隼人(2009)「琉球語宮古多良間方言の中舌母音」第139回日本言語学会全国大会(2009.11.28、於神戸大学)
青井隼人(2010a)「多良間方言における /tI, dI, nI, rI/ のギャップ」第4回琉球諸語記述研究会(2010.3.15、於琉球大学)
青井隼人(2010b)「宮古多良間方言の母音変化」第90回方言研究会(2010.5.28、於日本女子大学)
青井隼人(2010c)「南琉球宮古多良間方言における「舌先的母音」のパラトグラフィー調査」第24回日本音声学会全国大会(2010.10.10、於國學院大学)
青井隼人(2010d)「南琉球方言における「舌先的母音」の調音的特徴」『音声研究』14(2), 16-24
青井隼人(2011)『Praatを用いた音響音声学的分析の初歩』東京外国語大学(2011年3月初版、2011年9月増補改訂版)
新永悠人・青井隼人(2011)「奄美語湯湾方言における喉頭化共鳴子音の音響特徴」第142回日本言語学会全国大会(2011.6.18、於日本大学)
青井隼人(2011d)「舌端の狭めを伴う母音の音声的記述:宮古多良間方言の事例研究」第2回2011年度「音韻特性」「危機方言」合同研究発表会(2011.7.16、於国立国語研究所)
新永悠人・青井隼人・中川裕(2011)「喉頭化共鳴子音の音響音声的特徴:北琉球奄美大島湯湾方言の事例研究」『コーパスに基づく言語学教育研究報告』7, 285-300
青井隼人(2011e) 『Praatを用いた音響音声学的分析の初歩—増補改訂版』 *中川裕監修
青井隼人(2012)「琉球における中舌母音とはどのような母音か:北琉球奄美方言と南琉球宮古方言の比較」若手研究者育成セミナー(2012.1.22、於琉球大学)
青井隼人(forthcoming)「南琉球宮古方言の音韻構造」『コーパスに基づく言語学教育研究報告』8
髙橋康徳. 2010. 「上海語変調音韻論:再適性理論を用いた新解釈の提案」.修士論文.東京外国語大学.
髙橋康徳. 2011. 「中国語(普通話)の無軽音2音節語の語ストレス:聴覚音声学からの知見」、峰岸真琴、稗田乃、早津恵美子、川口裕司(編)『コーパスに基づく言語学教育研究報告6コーパスを用いた言語研究の可能性Ⅲ』: pp.27-44.
髙橋康徳. 2011. 「新派上海語の陽入声の変調パタン」、『言語・地域文化研究』17: 139-151
髙橋康徳. 2011. 「上海語声調音韻論における窄用式変調の地位」. 『中国語学』258: 99-114.
髙橋康徳. forthcoming.「上海語変調ピッチ下降部の音声実現と音韻解釈」. 峰岸真琴、稗田乃、早津恵美子、川口裕司(編)『コーパスに基づく言語学教育研究報告8』
髙橋康徳. 2009.「上海語変調音韻論:再適性理論を用いた新解釈の提案」. 東京音韻論研究会9月例会.東京大学. 2009年9月6日.
髙橋康徳. 2010.「中国語無軽声2音節語の語ストレスに関する聴覚実験」、中国語学会2010年度第1回関東支部例会.慶応義塾大学. 2010年6月19日。
髙橋康徳. 2010.「上海語窄用式変調の音響音声学的記述」日本言語学会第141回大会.東北大学.2010年11月28日。
髙橋康徳. 2011.「軽音を持たない2音節語のストレス知覚」. 第二回中国語音声研究会. 神戸大学. 2011年1月7日.
髙橋康徳. 2011.「上海語「語声調」におけるピッチ下降現象」.「語彙の音韻特性」「危機方言」合同研究発表会. 神戸大学. 2011年5月21日.
髙橋康徳. 2011. An acoustic study of Narrow Tone Sandhi in Shanghai Chinese. IACL-19. Nankai University, China. 2011年6月13日.
髙橋康徳. 2011. 「上海語陽入声変調における変種の出現分布:形態統語構造との関連性」. 日本言語学会第143回大会. 大阪大学. 2011年11月26日.
髙橋康徳. 2011. Effects of morpho-syntactic and phonetic factors on two tone sandhi in Shanghai Chinese. ICPP-2011. Kyoto University, Japan. 2011年12月14日.
Nakagawa, Hirosi. (2010) Phonotactics of disyllabic lexical morphemes in G|ui, 『コーパスに基づく言語学教育研究報告』 5巻23--31.